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誰も情弱にはなりたくない筈。でも偏った情報インプットや思い込みで知らず知らずのうちに情弱になっているかも?テレビや新聞の報道を鵜呑みにせず、視野を少し広げて別の視点で考える為のヒントを提供

ラグビーアイルランド代表のちょっと良い話

先月(2019年9月)から始まったラグビーのワールドカップ。日本代表の活躍と盛り上がりは皆さんご存知の通りですが、予選リーグで日本と同じプールに入っていたアイルランド代表に関するトリビアをご紹介したいと思います。

 

アイルランドはイギリスの西に位置するアイルランド島の大半を占める国。アイルランド島の北の方の一部(6州)は北アイルランドという別の地域になり、こちらはイギリス(正式名称:グレートブリテンおよび北部アイルランド連合)を構成する一つの地域となっています。アイルランド島は元々19世紀にイギリスに併合されましたが、アイルランドでは徐々に独立機運が高まり、1922年にアイルランドがイギリスから独立する際、アイルランド北部の6州はイギリス本土からの入植者が多かったこともあり、独立反対派が優勢であったため、そのままイギリスに残る事となりました。

 

サッカーの世界では有名ですがイギリスには英国4協会と呼ばれる4つのサッカー協会があり、国際試合を戦うチームも4チーム存在します。イングランドスコットランドウェールズ北アイルランドがそれです。サッカーワールドカップでイギリス代表は見たことがないですよね?これら4地域はイギリスを構成する地域であり、国ではありません。よくテレビで「世界18●の国と"地域"」という表現がありますが、これは英国が4地域で参加している場合やコソボパレスチナ、台湾等の国としての存在認知が微妙な地域が含まれるケースに用いられています。

 

さて、話をラグビーに戻しますが、イギリスのラグビー代表チームはイングランドスコットランドウェールズ。いずれもラグビーの世界では強豪ですね。では北アイルランドは??予選で負けてしまって今回のワールドカップ本選に出場出来なかったのでしょうか?そうではありません。ラグビーの世界では北アイルランド代表チームは存在しないのです。では北アイルランドラグビー選手たちはどうしているのかと言うと、アイルランドと合同でアイルランド代表チームを構成しています。

 

サッカーではイギリスの1地域を構成する北アイルランドラグビーではアイルランド島の代表としてアイルランド統一チームを構成します。なんとも不思議な話です。試合開始前の国歌斉唱の時もアイルランド国家ではなく、Ireland’s Callという別の歌が使われます。英語が得意な方はぜひ歌詞を見て頂きたいのですが、Ireland Ireland Together....と国は分かれても同じアイルランド島アイルランド人として共に戦う気持ちを歌っているのです。

 

若い方はご存じないかもしれませんが、1990年代より以前は北アイルランドをイギリスから独立させてアイルランドと合併することを目的に掲げたIRAという武装闘争組織が活発な活動を続けていました。1998年のベルファスト合意をもって紛争は終息(北アイルランドは独立せず引き続きイギリスの一部を構成)しましたが、当時のニュース報道に触れていた人々にとっては北アイルランドアイルランドと統一チームを形成するというのはなんとも胸を打つ話です。

 

とはいえラグビー代表がなぜその構成になったかというのは、ラグビーの精神とかそういった高尚な話ではなく単なる偶然のようです。上で述べた1922年のアイルランド独立の際にサッカー協会はアイルランドサッカー協会と北アイルランドサッカー協会に分裂した一方、ラグビー協会はなぜか分裂しなかった。結果現在に至るまでラグビーではアイルランド島の統一代表が形成されている、という事のようです。

 

いかがでしょうか?世界の歴史と日本にやって来たラグビーワールドカップのちょっとしたトリビアをミックスするだけで試合を見る面白さがもう一段増すと思いませんか?当ブログではこういった人生をほんの少しだけ豊かにする視点の提供を目指して参りますので、引き続きご愛読頂ければと思います。

トルコはなぜシリア北部に侵攻したのか?(抑止力の重要性)

今月(2019年10月)、トルコがシリア北部へ軍を進軍させ、その地域に勢力を広げていたクルド人達の排除に動き出しました。シリアでは元々アサド政権、反政府勢力、クルド人イスラム国(ISIS)等の勢力が入り乱れて戦闘が続いていました。ざっくり言えばアサド政権はロシアが支援、一方、反政府勢力はアメリカが支援していますが、両社で争うよりもまずテロ組織であるイスラム国の壊滅を重視してロシアとアメリカは一定程度の共同歩調を歩んできましたが、イスラム国勢力がほぼ駆逐できたことで情勢が変化してきました。

 

前述のクルド人たち、そしてシリアの北に位置するトルコもイスラム国排除に協力してきましたが、一方でトルコとクルド人は歴史的に反目関係にあり、イスラム国がほぼ壊滅した後はトルコのエルドアン大統領がクルド人の排除に動くのは自然な流れと言えます。ただし今月上旬まではシリア北部(トルコ国境沿い)に米軍が駐留しており、対イスラム国で協力していたクルド人への攻撃を認めない姿勢を示していた為、トルコが実際に軍事行動に移すことはありませんでした。

 

情勢が変わったのはアメリカのトランプ大統領が国内世論を気にして大統領選で約束したシリアからの米軍撤退を強行したからです。即座に米議会や共和党重鎮からも反対の声があがりましたが、少なくともトルコから見れば「米国のトップはシリア北部のクルド人を守る気はそれほどない」と見えたでしょう。トランプ大統領Twitterで「一線を越えればトルコの経済を破壊する」と経済制裁を匂わせて牽制しましたが、米軍撤退の発表から一週間と経たずにトルコは越境進軍を開始しました。

 

状況を改善させるためには米軍がシリア北部に再びコミットする姿勢を見せる必要がありますが、これは従来平和維持のために当該地域に置いていた軍の数倍の戦力が必要になるでしょう。少数の軍を駐留させ続けることがトルコに対する「抑止力」として働いていたわけですが、軍が撤退した後はその「抑止力」が失われ(Twitterは「抑止力」として機能しませんでした)、かつての安定状態を回復させるためには抑止力の数倍のコストをかけなければならない状況に追い込まれました。

 

翻って日本でもかつて民主党が政権を獲得した2009年の選挙の際に、民主党鳩山由紀夫代表は沖縄の米軍基地移設について「最低でも県外」と、結果的に実現しない沖縄県民を騙す発言で国民の歓心を買いました。その後首相に就任した鳩山氏は暫くの間、色々な手段を模索したようですが、最後は「学べば学ぶほど抑止力が必要との思いに至った」として米軍基地の県外移設を断念しました。

 

日本国の首相にもなろうという人間が首相就任前に国家防衛の肝である「抑止力」について学んでいなかったのか?と言いたくなるエピソードですが、当時は日本中がとにかく政権交代!と熱にうかされており、民主党が経験の浅い人達の集まりであろうがなんであろうが関係ない、という雰囲気でした。この点は日本の有権者としては反省しないといけないところでしょう。

 

話を「抑止力」に戻しますが、尖閣諸島を皮切りに沖縄、日本への侵攻すら狙う中国の軍事的脅威に対して、沖縄に米軍基地があるから平和のバランスが保たれているという事です。太平洋戦争の反省から日本は平和を貴ぶ国となりましたが、自分だけが平和を唱えて武器を持たなければ平和が守られるという事は理想ではありますが、現実はそう甘くありません。軍の存在があり、それが「抑止力」となるからこそ平和は保たれているのです。トルコのシリア侵攻はその事を私たち日本人に改めて教えてくれる良い教材ではないでしょうか。

 

軍隊がなければ平和になると主張する人もいますが、少し想像力を働かせて警察官がいなくなれば犯罪がゼロになるかどうかを考えてみてください。警察も犯罪に対する「抑止力」の機能を持っています。勿論警察がいるから犯罪がゼロになるわけではありませんが、では「抑止力」は不要と断言して良いのでしょうか?新宿の歌舞伎町で警察がいなければボッタクリも喧嘩もなくなるのでしょうか?残念ながら人が集団で生活している限り、必ずどこかに対立が発生します。国が存在している限り、紛争や戦争は起こり得るのです。平和を維持して行く為に軍事力を強化する。矛盾しているように聞こえますが、これが現在の世界をバランスさせている「抑止力」なのです。